正直この段階で、休日も終始頭と視界がぐらついてかなり危ないと言う状態であった。
弥生からは月々取り立ての通常運転。
それに借金の件が重なる。 

が、ちょっとした転機が訪れた。
2006年秋口に、例の若手店長さんが関東に異動となり、代わりに店長としてもベテランの人が入れ替わりに来て、お後スーパーバイザーの方が退職したのである。
 
ベテラン店長に替わっても、僕がやらかす度に怒られが発生すると言う状況にはかわりなかったが、それでも前任店長+スーパーバイザーの時みたいな、(なにかしたら怒られるんじゃないか)と絶えず萎縮しているような状態よりはかなりマシになった。
(まあ、前任の若手店長さんとも、後年時々会う分には仲良く雑談しているのだが。 )

今回の店長は流石によく心得ていたと言うか、万事緩急をうまくつけて、楽しく雑談したりすることも多かった。
バイトが若干人手不足であったが、僕なりに能力はともかく前よりはモチベーションを上げて、 バイトに大声で指示を出す局面もあった。
(なんやかや何人かの学生とは仲良くなった。)
が、人がいないと日に日にしんどくなるのは変わりない。
残業代が一般社員なのである程度出してくれるのは色々助かったが。
因みに弥生や借金の件には改善は無い。

そんな中、2007年後半だったか…?
一人のフリーター男子が加入してきた。
ここでは荒川としておく。
僕より6個程度歳下。
何故か隣の市の大農家の息子で、わさわざそこから車で通ってくる。
しかし、他のファーストフードでの経験が長く、実際加入後すぐ即戦力として機能してくれた。
僕としては、店長から新たに「荒川の作業スピードを見習え!」的な怒られネタが増えてしまったのはあるが、店舗運営が楽になり、僕自身の消耗も減ったので、ありがたいと言う気持ちが勝っていた。
その時は。

その後2008年春頃から、僕個人としては重要な転機が訪れる。
そう、遠距離で一回り以上歳下とは言え、互いが運営してた携帯小説サイトでの交流がきっかけで、明日香という彼女に出逢えたのである。
そうなると、もういい加減弥生への対処をきちんとせねばならない。
相変わらずガツンと言う胆力はなかったが、色々伏線張って最終的には、

「家族に今までの貢ぎの全てがバレてしまい、携帯や口座も管理下に置かれ、更には訴えると騒いでいる」と言うストーリーで、やっと、どうにか、ようやく、弥生と一切の縁を切ることが出来た。
恋人となる以前の明日香とのデートで、弥生以外の女性に実質初めて接して、現状に改めて疑問を今更抱き、「呪いのプログラム」が外れたというのも大きい。
しかし縁切りしても、無論借金は優に数百万…。

僕にとっての「失われた10年」のダメージはあまりにも大きい。なんでもっと早く…。という思い、慚愧の極み。
今に至るまで。

…まあ、それは置いておくとして、月1.2回程度しか会えないとは言え、明日香との交際は素晴らしいものだった。
 対等の男女関係、恋愛がこんなに素晴らしいものとは。
彼女にも感情の起伏の激しさ等、勿論欠点はあったが、少なくとも僕を一個の人間、男性、彼氏として扱ってくれた。
今はとうに互いに別の人生を歩んでいるが、感謝しかない。

…で、仕事の方であるが…。
一時は、 荒川の加入で余裕が出来、トレーニングに力を入れて、(例の2005年のIT会社さんから成り行きで頂いた)古い精度がアレな奴とは言えスピードガンで120キロをマークする、久々の野球ピッチング方面での戦果を上げもしたが。
本社の方で、(元々創業者一族の御曹司だった)当時の社長が、他の兼務している子会社に余裕が出来たからなのかどうか、とにかくこちらの会社への介入度が増し、営業、管理体制の締め付け、業務チェックが厳しくなってきたのだ。
 
さすがのベテラン店長も、地区管轄するエリアマネージャー兼務して、当然ながら余裕がなくなって来た。2010年代に入って、 本来とうに店長の補佐代理をすべきであるのに副店長にもなれず、相変わらず能力に進歩なく、やらかしも繰り返す僕にカミナリ、と言う局面も増えてきた。
そうなるとどうしても、「荒川に比べて…」と言う文脈になる。 
もちろん僕も「わかっちゃいる、わかっちゃいるけど…。」という感じで、なんとか自己改善を図りたいのが山々だったが、はっきり言って何年やっても変わらず、「店を半日か一日回して、クレーム等のトラブルにビクビクしながら、最低限の管理、発注、店閉め作業をする」 だけでその日の精根が尽き果ててしまい、別個に店の管理体制強化や自分のスキルアップ、などと言う余裕はとてもなかった。
まぁ、少なくとも「こうした仕事」におけるキャパが絶対的に足りなかったのだ。

こうなると、必然的に店の怒られ役になってしまう。どんな他人のせいでもないが。

並行して、荒川が本性と言うか、じわじわと牙を剥き出してきたのはこの頃だったか…。
しかもそれは、まずは僕に対してでなく、アルバイトの女子大生、女子高生の子達であった。
要するに、自分が見初めた女性には見境なく声をかけ、(後で女性たちに聞くと僕をくさして自分上げをして、俺は実家と本業が太いから本来バイトする必要がないけど、内野(僕)とかがだらしないから仕方なく店を支える為に働いてやってるんだ…と言う調子である。で、何となく逆らい難いプレッシャーを感じて何人かはメアドを教えてしまう。)
その後は店にいる時もプライベートでもターゲットにあれやこれやアプローチをかける。
正直僕が言うのもアレだが、背の低いガマガエルのような風貌で。
要するにセクハラとストーカーの合わせ技みたいなものである。

段々と複数の女性から相談を受け、当時シフト(勤務表)を作っていた僕は、取り急ぎ該当の子の勤務時間をずらしたり、仲の良い、腕っ節もある男子バイト達をフォローに添えたりした。
何しろ向こうは女性に彼氏がいようがお構いなし。
ある子の誕生日には、おじさん構文どころでない、当時のガラケーのデコメ機能全開で「親の前で朗読してみろ」と言いたくなるようなキモスギメールを送りつける。
別の女子大生が、少し体調だるそうにしてると、
「今日は生理かな?」
と直球で問いかける。
僕含めアレはもう全バイトが凍りついた。

「さっさとそんな奴は怒鳴りつけるかクビにしろよ。どんだけヘタレなんだよ」
と、当然皆さんお思いだろう。

が、同様に状況は把握していたであろう店長ともども徹底した対応を取れなかった理由として、なぜか荒川が本部(社長、副社長含め)の主要スタッフに異様に高く評価されていたと言う一面がある。
定期的に社員同様、荒川とも面談の時間を取る営業部長、あるいは副社長に、具体的に見えないところで何を言い、アピールしたかはわからない。
しかしとにかく彼に「自分のセクションを超えた上位者達に自分を優秀かつ美しく見せる。」事に関する悪魔的な才能があった事は確かだ。

一方僕はと言えば、相変わらずと言うか、精神的負荷も増えてますます疲弊、なんなら能力的に劣化さえしていた。
そして例えば重要食材の発注ミスをやらかし、万年ペーパードライバーの僕は荒川に頭下げて車を出して他店からの調達をお願いせざるを得ない。と言ったこともあり、他の忙しい中での作業面でのフォローをしてもらってたこととも併せ、荒川に借りを常時作ってしまったような感覚を持ってしまっていた。
で、荒川はどうもバイトの皆に、他の件も含め「内野さんはシフトもまともに作れない」と言った事を吹聴して回ったらしく、店長は遂に、バイトリーダー的ポジションについていた荒川にシフト作成を委ね、僕には管理職就任を意識した次年度予算作成、などの数値管理をやらせるようになった。まあ、順番としては正しいんですが。

一方でありがたいことに、あれこれ疲弊した僕に、ベテランバイトのみんなが男女問わず、なにかと気を遣ったり仕事をフォローしてくれるようになった。
あとは仕事のアフターで、飲み食いに一緒に行ったり…。
まあ、特に女子の方々に関しては、「荒川被害者&対策の会」と言う側面もあったのだが。
店長らはそう言うのを冗談半分に、「内野会」と呼び、いつしかその呼称が定着してしまう。
で、荒川はそれがまた気に食わない。
正直、別に彼を意図的に排除した、「ハブった」覚えはない。
そもそも主体的に僕が作った派閥ですらないから。
が、荒川が権力濫用的に、常時自分と同じシフトに入れたターゲットの女子学生の子を、アフターであれこれされないよう終業時間に合わせ、体格体力に勝る男子バイト達が迎えにいって「保護」していたのは事実。
まぁ、逆恨みがジワジワ僕に集中してたんだろう。

一方で、純粋な仕事面でも、荒川への対処共々僕は疲弊していた。
結局荒川にマウントを取られっぱなしなのは、終始そういう僕の能力不足、キャパシティ不足という自己責任に尽きるんですがね。
2012年春、副店長として若い後輩社員がうちに来て、押し出しで僕は都市部の店舗に異動になった。
僕にも「副店長」の役職がつく。
要するにベテラン店長が間も無く辞める為、管理職の絶対数を増やさなければならなかったのだが、荒川は例によって嬉々として「内野が左遷されたwww」と吹いてまわっていたらしい。
(僕は良いとして向こうの店舗に失礼極まりないのだが。)
幸い移動先の店舗も皆さんいい人で、新鮮な気持ちで仕事させて頂いた。
そして4ヶ月後、地元店舗に戻った僕と若手さんの2人で副店長。
退職したこちらの店長に代わり、新任の同世代エリアマネージャー の人が兼任店長。
と言う体制となる。 

所謂陽キャ、万事器用なタイプの若手副店長がいてくれていたお陰で、何となくパワーバランスが取れていたと言うか、荒川の専横も程々に収まり、僕も少し楽になった。

とは言え実質現場責任者ともなったので、やはり緩やかに疲弊はしていたのだが。

そして…
2013年7月頃、大きな転機。
若手副店長が関東に異動、そこの店舗の店長となり。
そしてこの僕も、地元店舗の店長となったのである。
で、若手さんと入れ替わりに異動してきたセカンド社員なのだが…。 

何もよりにもよって、俺と同い年の「量産型内野俊也」を寄越すこたあないじゃないか!!
しかもこれが正社員として最初の任地という…

その通称ヨコチンは、まあ作業速度とか体力は荒川にそれ程劣らなかったが、なんか経験不足なのか、色々ベテランバイト達と無用のトラブルを起こす。
「上に弱く下に対し無駄に強く出る」典型か。
 あと、ポカのやらかしがこの僕が呆れるレベルであったり、トラブル、イレギュラーへの対応能力が、申し訳ないが新人時の僕にも及ばないのでは?というレベル。

要するに例えば休日に遠方の明日香に会いに行く時も、中々安心して店を任せられない。
家で身体を休める時もどこか気持ちをオフにできない。
(まだエリアマネージャーが定期的にシフトに入ってくださるんでよかったが。)

本来彼のような新人はベテラン店長の元とか、人員的に余裕ある店舗にまず配置すべきと思うのだが、ここの会社はなぜかこういう組み合わせ、悪手を取りたがる。

で、ヨコチンはエリアマネや僕に叱責される反面、何故か女子高生バイトには強気に出て、そこまでミスしたわけでもない相手を泣かせたりもした。
「もう無理です」と2.3人の子からLINE来たりして、一対一で厳重注意をしたりした。
…ここらの不協和音を、荒川が見逃すはずは無かった。

例によって、本部の幹部達との謎パイプを最大限に利用する。
「社員がこんな状態だし、僕は辞めて家業に専念したいんですよ。」
と本部にふき回る。大体窓口は個人的に仲の良い?女性経理部長だった。
(ぶっちゃけ人員的にはどうとでもなるし、勝手にどうぞと言うのが本音なんだが。
極論奴は女性の多い所でバイトして、社員より出来る俺様アピールした上での彼女探し、のダシにこの店に寄生している、それが目当て、と言う状態なのだから。)
 だが本部、幹部層は一々大袈裟にそれを受け止める。

元々、社長、副社長の、「長く活躍して店を支えてるバイト、パートさんには常々感謝して大事に臨時ボーナスなどで報いて厚遇しなければ」と言う考えが背景にある。
 普通、当の皆様は「分かっている」から、その場で賞賛や報酬を感謝して受け取るのみに止めるのだが…。
どういうマインドコントロールを使ったのか本部からより一層の、意味不明の厚遇(時給やガス代を過去最大レベルに引き上げられたり)を受けている荒川は、それでは済まなかった。

「俺もう辞めよっかなー(お気にの女の子に)俺と一緒に辞めね?ww」
「俺が辞めると会社の上の方が困っちゃうんだよねー。知ってる?
俺が辞めると内野とエリアマネージャーが揃って社長に怒られるんだわ」 

などと吹聴する

で、時々レジで接客する時は、 何のプライドかポケットに片手を突っ込んでレジを打つ。
影に隠れお客様には見えないとは言え。
しかもその時の接客担当者名義を僕にする。
(なので僕は休みや出張の時も店で接客していると言うことがある。)

店舗が暇になったので、シフトインしていたエリアマネージャーの許可を得て、僕が女子高生バイト連れチラシ配りに行くと、 後で本部の例の経理部長に電話をかけ、
「内野さんは忙しい店をほっといてチラシ配りに行った!」などと言う。
こういったことを後でどう言っても、荒川を信じ切っている本部は聞いてくれない。

で、執心していた女子高生バイトを、まだ当人がシフト希望を出していないにも関わらず、自分と重なるシフトに入れる。
しかも二人同じ時間に上がると言う、あまりにもわかりやすい下心…。

「私そもそも、その日入れないんですけど…。」
と当人からのクレームを受け、当然僕は彼女の予定を消す。

すると…

荒川は業務ノート1ページ丸々使って、僕の当然のシフト調整を
「無責任だ、こんなんじゃ店が回らない」
「それでも管理職ですか?」
「前任の店長にも散々言われたでしょう!」 
と手前勝手にも程がある俺様理論で、僕への弾劾文を書いたのである。  
(シフト修正前に荒川にメール等で報告しなかった事以外、僕サイドになんの手落ちもないのだし、むしろ女子バイト本人の意思を無視して暴走した、荒川を怒るべきなのだが。)

巡回チェック時、 本部の皆が業務ノートをチェックする、その事を計算してのことであるのは明らかであった。
僕はともかく、強気なエリアマネージャーも遠慮なくはそういった事にモノ申せない程に、荒川による権力のねじれ構造はいびつで強固なものとなっていた。

そもそも非正規のバイトリーダー的存在が、上位の正社員ポストを2段階すっ飛ばして本部と繋がってやりたい放題。と言う異常さである。

事あるごとに本来、「ただ自分がセクハラストーカー的にアプローチをかけたその時の目当ての女子に、当然袖にされる」というだけの話が、
どう言うからくりか、「主に内野とかが、店の、会社のルールを平然と破っている、許しといていいんですか!?」 
と言う話にすり替わってしまっている。
それが積み重なった末、
無言のうちに「荒川君が辞めたらお前達正社員のせいだぞ」というプレッシャーが本部からかかるようになった。
だので屈辱的なことだが、色々細かいところで荒川に対し気を遣わざるを得ない状態となる。
例えば、荒川は勤務時間的に15時から店閉めまでの遅番なのだが、勤務時間的には定時を過ぎた 早番の僕が、彼をサポートする為にサービス残業(いわゆる名ばかり管理職の店長たる僕が、時間外勤務しても必然そうなる。)を行い、荒川が閉店業務準備ができるよう店を見ておいてあげる、というケースが増えた。
イレギュラーに忙しいとかない限り、そんなことはしなくて良いのだが。 
とにかく荒川が早く帰宅できるように配慮しての事だったのだが、むろん当人は礼など言わず 、ただ自分の仕事が早いとドヤるだけだった。

…ここまで読んできてお気づきの方も多いだろうが、荒川は低俗なサイコパスであった。
そういう人間との接し方を、弥生の時とは違うニュアンスで、もっと熟慮すべきであったのだが、日々何がトラブルかわからない店舗を管轄するだけで、キャパオーバーになるという、僕の絶対値の足りなさは変わらなかった。

いっぽうでもう一つの試練?もあった。
明日香との別れである。2014年春。
前年から向こうからの押しかけで同棲していたのであるが、僕の方の生活力の無さ…料理を始めとする家事全般のできなさ加減(失われた10年の痛手の一つと言えばそうだ。)
休日も常に店に、スマホに神経を使っている余裕のなさ。
明らかに手取りが少ないのに転職活動していない(ように見える)などなど色々なこちらの欠点が露呈して、愛想を尽かされ、別れを告げられてしまった。
まぁ、基本僕の不徳の致すところではある。

で、さんざん長いこと専横していた荒川であるが、同年6月頃ついに辞めた。
やめる事自体には、社長も副社長も、「そうか」で済ませていたのだが…。
これと前後して、地元の店というか、店長たる僕自身への当たりがきつくなってきたのである。
で、セールスの大きい、つまり忙しい店舗にはありがちな、売り上げ銀行入金時に時々あるミス(金額誤差)を拾い上げては、2.3週間に1回くらい、僕をわざわざ東京の本部に呼び出し幹部一同で詰問するのである。
(以前いたベテラン店長の時からままあった事なのだが、何故か今になって)
で、何枚も始末書を書かされる。
 明日香との別れ、荒川からの執拗な突き上げ、讒言、そして弥生との10年の未だ深々と残る古傷。
 それに本部からのプレッシャー。
しかも社長の経費管理の締め付けも厳しくなり、「社員シフトが足りないところは全て残業代のかからない店長が埋めろ!」
となる。
だので勤務日はほとんど全て丸一日の通し番と言う状態。
たまの休みも例のアレで本部に呼び出される。


…ある日突然、とうとう僕は、勤務中に崩れ落ちガックリと膝をついてしまった。
そこまで行かなくとも、頻繁に目眩や息苦しさ…

「ああ、壊れたんだな。」と2014年夏にようやく自覚できた僕は、心療内科に行き、 うつ病と診断書を書いてもらって、それを本部に送った。

ぶっちゃけ逃げなのかもしれないが、今はとにかくここを離れないと死んでしまう、と言う本能のようなものであった。
翌日から、僕はひたすら布団に潜り込むこととなる。